大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行コ)26号 判決 1995年6月22日

控訴人

千代田化工建設株式会社

右代表者代表取締役

柏原正明

右訴訟代理人弁護士

小倉隆志

右訴訟復代理人弁護士

中町誠

被控訴人

中央労働委員会

右代表者会長

萩澤清彦

右指定代理人

福田平

青木勇之助

朝原幸久

西野幸雄

吉永和弘

被控訴人補助参加人

越智康雄(以下「補助参加人」という。)

右訴訟代理人弁護士

伊藤幹郎

星野秀紀

荒井新二

船尾徹

堤浩一郎

星山輝男

前川雄司

小島周一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人を再審査申立人、補助参加人を再審査被申立人とする中労委平成二年(不再)第一八号事件について、平成四年五月二〇日付けをもってした命令を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  事案の概要

本件の基礎となる事実関係(当事者間に争いがないか又は証拠によって認められる。)並びに主たる争点及びそれについての当事者双方・補助参加人の主張の要旨は、次のとおり補充するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一四枚目表七行目の「昭和六三年六月二五日」を「昭和六二年六月二五日」に改める。)。

(控訴人の主張)

1  補助参加人は、当初から解雇を覚悟して移籍に反対したもので、移籍を拒否すれば解雇になることは十分予想できたものである。

2  本件解雇が不当労働行為になるか否かは、移籍拒否が労働組合の正当な行為に当たるか否かにかかっている。しかるに、補助参加人の移籍拒否活動は、当初から日本共産党千代田化工支部の方針として行われたもので、労働組合の正当な行為には当たらない。控訴人が嫌悪していたのは、日本共産党千代田化工支部の構成員による日本共産党の活動であるから、不当労働行為が成立する余地はない。

三  争点に対する判断

当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補充、付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の記載(その引用する同欄の「第二 事案の概要」の「二 基礎となる事実関係」の記載を含む。)と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決四三枚目裏六行目の「右事件」の次に「の再審査申立事件(中労委平成四年(不再)第六号)」を加え、同四四枚目表三行目の「同地労委」を「被控訴人」に改める。)。

1  本件解雇の理由について

控訴人の川崎工場は、長期にわたって業績不振が続き、人員削減を含む経営改善策を行うべき経営上の必要性があったこと、控訴人は、その方策として、第一次及び第二次非常時対策を実施したが、これは経営判断として首肯できるものであり、これらの施策には相応の合理性があったものと認められること、本件解雇の時点において、人員削減の目的についてはほぼ達成したといえるものであり、更に人員を削減する必要性・緊急性は当初よりかなり低くなっていたと認められること、本件解雇は、就業規則及び労働協約中の「会社が経営規模の縮小を余儀なくされ、または会社の合併等により他の職務への配置転換その他の方法によっても雇用を続行できないとき」には従業員を解雇する旨の規定に基づくものであるが、本件の場合、控訴人において人員削減の必要性があったこと自体は認められるものの、十分な解雇回避努力が尽くされないまま補助参加人に対する解雇という手段が選択されたものであり、本件解雇は右規定に当たるものということはできないことは、原判決判示のとおりであり、これらの事実を前提とすると、当裁判所も、本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効であると判断する。

控訴人は、補助参加人は、当初から解雇を覚悟して移籍に反対したもので、移籍を拒否すれば解雇になることは十分予想できたものである旨主張する。しかしながら、本件解雇において補助参加人は移籍に同意しなければ解雇されることを覚悟していたと認められないことは、原判決判示のとおりであるのみならず、仮に被用者が使用者の移籍の申出に応じなければ解雇される可能性があることを想定しながら右申出を拒否したため解雇されたからといって、当然に右解雇を容認していたということはできないから、解雇権の濫用の判断はこれによって左右されないというべきである。したがって、控訴人の右主張は失当である。

2  本件解雇の不当労働行為該当性

労組法七条一号の「労働組合の正当な行為」といえるためには、ある組合に属する労働者が行う活動が、労働者の生活利益を守るための労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を目指して行うものであり、かつ、それが所属組合の自主的、民主的運営を志向する意思表明行為であると評価することができることが必要であり、かつこれをもって足りるというべきで、仮に右活動が組合機関による正式の意思決定や授権に基づくものではなく、又は、組合による積極的な支持がいまだ得られていない活動であり、あるいは、それが他面において政党員の活動としての性格を持っていたとしても、労働組合の正当な行為というを妨げないこと、補助参加人らが中心となって設立されたストップさせる会の諸活動は、組合執行部に対する批判を伴うものであるとはいえ、組合が控訴人との間で合理化政策に関する協定を締結するまでは、組合員として労働組合の自主的、民主的運営を志向するためにされた活動であるといえること、このような観点からみると、控訴人と組合間で合意の成立にまでは至っていなかった職務開発休職制度の実施に反対していた補助参加人の仮処分申請等の諸活動については、労働組合の正当な行為に当たること、組合員が特定政党の党員になるなどして政治的活動に関与していたとしても、当該組合員の活動のすべてが組合活動に当たらないとされる理由はなく、補助参加人の正当な組合活動が、日本共産党千代田化工支部の構成員とともに行われたとしても、それによって右活動の性格が純然たる政治活動に転化するものではないこと、しかして、控訴人は、昭和四八年ないし同五〇年ころには、既に補助参加人グループに属する組合員らを敵視しており、その後本件解雇までの右組合員らの組合における選挙活動や修正案提出活動、あるいはストップさせる会における活動も同様に敵視し、補助参加人が右グループに属することも把握していたものということができ、補助参加人の移籍反対活動を違法不当なものとしてとらえ、補助参加人の仮処分申請とこれに伴う補助参加人グループの活動について嫌悪していたことを認めることができることは原判決判示のとおりであり、これらの事実を前提とすると、当裁判所も、本件解雇は、控訴人が補助参加人の前記の正当な組合活動を嫌悪する意思をもってしたもので、本件解雇は労組法七条一号の不当労働行為に当たると判断する。

控訴人は、補助参加人の移籍拒否活動は、当初から日本共産党千代田化工支部の方針として行われたもので、労働組合の正当な行為には当たらないから、不当労働行為が成立する余地はないと主張するが、右主張が失当であることは前示したところから明らかである。

3  救済内容

控訴人は、本件命令の救済内容が違法である旨主張するが、初審命令は、控訴人に対し、補助参加人に対する解雇がなかったものとして取り扱い、解雇期間中の賃金相当額に年五分の割合による金員を加算して支払うことを命じるとともに、誓約書の交付及び掲示を命じたもので、その内容に徴すると正当なものであり、これを維持した本件命令は、労組法所定の救済命令の制度によって労働委員会に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められず、また、もとより不当労働行為救済制度を私法上の救済制度と別個に設けることが憲法に違反するものでもないことは、原判決判示のとおりであり、当裁判所も控訴人の右主張は失当と判断する。

四  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用(当審における参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 西尾進 裁判官福島節男は転勤につき署名捺印できない。裁判長裁判官 宍戸達德)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例